私は、以前Helicobacter pylori(ピロリ菌)の病原遺伝子であるcagAが、東アジア型(East Asian type)と欧米型(Western type)に分類されることを発見した。日本を始めとする東アジアのピロリ菌は、ほとんどが東アジア型に分類されるが、稀に欧米型を持つ菌も見られる。本研究では、東アジアに認められる欧米型cagAを持つピロリ菌についてMultilocus Sequence Typing (MLST)を用いた遺伝子解析を行い、その起源・疾患的特長を明らかにすることを目的とし、特に、沖縄の欧米型cagAを持つピロリ菌の起源を明らかにし、さらにこれらのピロリ菌感染者が、通常の東アジア型菌感染者に比べ、潰瘍、胃癌などの疾患になりやすいか否かも明らかにすることを今年度の目標とした。 沖縄由来の255株を用いたところ、胃癌症例では、90%以上が東アジア型cagA菌であるのに、胃炎症例では、60%程度しか東アジア型cagA菌がなく、欧米型cagA菌やcagA陰性菌が多いことが判明した。また十二指腸潰瘍症例でも、60%程度しか東アジア型cagA菌がなく、欧米型cagA菌やcagA陰性菌が多いことが判明し、胃癌と十二指腸潰瘍を分ける因子にcagAのタイプが関与していることが明らかとなった。また欧米型cagAの遺伝子構造は、典型的な欧米型とは少し異なり、MLSTでも、沖縄の欧米型菌は、従来の欧米型菌とは異なるクラスターを形成し、最近(戦中戦後に)欧米人から感染したものではないことが判明した。現在、沖縄の欧米型菌の起源についてさらなる解析を行っている。
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