胸腺の髄質上皮細胞は、臓器に特異的な抗原を異所的に発現、それを提示することで、自己臓器反応性T細胞を除去し、自己免疫を抑制する。これまでに、髄質上皮細胞の分化・成熟に必要なシグナルを明らかとしてきた。その過程で、髄質上皮細胞は"臓器に特異的な抗原"のみならず、1型インターフェロンで誘導される遺伝子を多種類にわたり発現する、との予備的な結果を得た。すなわち、胸腺髄質では、あたかもウイルス感染を"擬態"した微小環境が形成され、ウイルス感染時に誘導されるタンパク質に応答するT細胞も除去されていると仮説を立てた。 I型インターフェロンで誘導される遺伝子がどのような分子機構で発現制御されているのか明らかにするために、まず胸腺髄質上皮細胞の分化に必要なシグナル伝達因子TRAF6やNIKに依存して胎仔胸腺ストローマで発現誘導される1型IFN誘導遺伝子群を同定した。ついでそれらの遺伝子群のプローモーター領域をin silicoで解析し、発現を制御する転写因子候補としてSTATIなど複数の転写因子を得た。これらの結果は、STAT1は胸腺髄質上皮細胞が機能的に分化する際に活性化されることを示唆する。そこで胸腺髄質上皮細胞の分化を誘導するTNFファミリーサイトカインRANKLの刺激により、STATlが活性化されるのか調べるために、胸腺ストローマ器官培養をRANKLで刺激した後、ウエスタンブロットで解析した。その結果、RANKL刺激に依存してSTATlのタンパク質発現およびリン酸化が亢進していることが判明した。
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