研究概要 |
本研究は、ピロリ除菌による胃癌予防に向けた現実的なシナリオについて損益のシミュレーションを試み、国家規模の新たな胃癌対策の効果を経済分析の手法を用いて検証することを目的とする。 初年度は、ピロリ除菌による胃癌予防に向けた検診・除菌を実施する4つのシナリオを作成し、各シナリオで必要となる検診費用の試算を行った。すなわち、(1)若年者(16歳以上40歳未満)で実施する、(2)若年者と中高年者(40歳以上80歳未満)で実施する、(3)中高年者で実施する、および、(4)現行の胃癌検診を中高年者で実施する、の各シナリオで、ピロリ菌感染率を20歳代以前13%~70歳代以降73%などと年齢階級別に設定、尿による検診の受診率を10~50%、陽性者がピロリ除菌治療を受ける割合を30~80%に変動させた。除菌治療後は尿素呼気試験による検査で陽性の場合は、再除菌を実施することとし、検診費用4,200円、胃カメラ実施後の除菌費用17,850円、再除菌費用9,450円などのパラメータを用いて算出を行った。 その結果、若年者の場合、例えば、検診受診率30%で除菌治療の受療割合が50%、80%では、各710億円、852億円の費用が必要となる。中高年者の場合、同様の条件では各1,794億円、2,387億円が、また、若年者と中高年者の場合は、同じく各2,504億円、3,239億円が必要となる。検診、除菌治療を自費で行う場合、胃内視鏡検査を受けて再除菌を行う場合は31,500円の負担となる。学校、職場等で若年者の検診勧奨を行い、受診率50%で80%が除菌治療を受けた場合、必要な費用は1,420億円となる。次年度は、ピロリ除菌による胃癌予防の対策費と、これにより胃癌の発症が抑えられることで得られる経済的利得(胃癌の治療費、療養による逸失利益、および、癌罹患による早期死亡で生じる逸失利益)とのバランスシートについて検討を行う。
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