研究概要 |
【目的】H.pyloriの検査と除菌治療による胃癌予防の経済効果を明らかにする。 【方法】文献データを用いて、H.pyloriの感染者数、感染率、およびH.pyloriによる胃がん発症者数を、将来にわたって推計した。患者調査、賃金構造調査、診療報酬点数表等から、H.pyloriの検診の費用便益分析を行った。費用は集団検診と除菌治療にかかる費用、便益はH.pylori感染で生じた胃がんの治療費、入院や通院の逸失利益、早期死亡による逸失利益の合計である。 【結果】2010年の場合、10~19、40~49、60~69歳のH.pyloriの感染率は各2.5%、28.1%、52.6%、感染者総数は3,731万人と推計される。2020、2030、2050年の感染者数は各3,133万人、2,446万人、1,099万人である。H.pylori感染で胃がんを発症するリスクのある者は各63万人、49万人、22万人である。 検診の対象を16~39歳の若年者とし、検診の受診率30%、除菌の受療率60%とした場合、2010年の費用は757億円である。各20%、40%では422億円、各40%、70%では1,073億円である。一方、胃がんの治療費は82億円、逸失利益は617億円で、便益は700億円である。従って、検診の費用便益比は上記の場合、各0.9、1.6、0.7である。検診受診率と除菌受療率が低い場合は年間の検診と除菌治療の費用は少なくて済むが、長期にわたる検診と除菌治療のプログラムが必要となる。これが高い場合は年間の検診と除菌の費用は膨大となるが、感染対策は短期で終了する。 【結論】H.pyloriの感染率は若年者で減少する傾向が続いており、H.pylori検診の経済的な効果は、感染者数の変化と検診の受診率、除菌の受療率を考慮する必要がある。
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