院内の転倒転落はインシデントや医療事故の中でも頻度が高く、しばしば医事粉争の原因となる。従来から、転倒転落を予知するために種々のリスクアセスメントツールが用いられている。これらのツールは、転倒転落自体を予知するために設計されており、転倒転落の結果起こる外傷については考慮されていない。しかし、転倒転落事故の事後対応では、むしろ重大外傷の有無が大きな意味を持つ。そのため、本研究では重大外傷発生の有無を指標としたリスクアセスメントツールの開発を目的とした。初年度は、院内事例を検討し、転倒転落後の重大外傷で頻度が高いのは、骨折、ついで頭蓋内出血であり、この二つが重大外傷の多くを占めることを明らかにした。次いで、骨折、頭蓋内出血それぞれのリスク因子を検討した。転倒後骨折のリスク因子については、以前のpreliminaryな研究と同様に、転倒転落リスク因子に加えて骨折リスク因子が重要であることを再確認した。一方、転倒後頭蓋内出血については、抗凝固薬・抗血小板薬内服歴、基礎疾患(血液疾患、悪性腫瘍、他)も含めて、リスク因子を検討した。その結果、これら出血性素因と関連がある因子は転倒後頭蓋内出血の発生とは有意の関連がなく、むしろ、骨折リスク因子と関連が強いことが判明した。この結果については、医療の質安全学会で発表した。
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