研究概要 |
多くの医療機関では、院内転倒の回避方法として、リスクアセスメントツールを用いて転倒の高リスク患者を同定し、リスクに応じた予防策がとられている。こうしたツールは、転倒自体を予測するのが目的で、転倒によって重大外傷が生じるかどうかは考慮されていない。しかし、事後対応で最も重要なのは、外傷を伴うかどうかである。これまで、①転倒後の重大外傷のほとんどを骨折と頭蓋内出血が占めること、②骨折は骨折リスクアセスメントスコア(FRAXなど)と関連が強いこと、③頭蓋内出血は患者の出血傾向よりも骨折リスクアセスメントスコアと関連が強いこと、を明らかにした。以上の結果を踏まえて、転倒後重大外傷発生をアウトカムとして、種々の危険因子を抽出し、転倒後重大外傷発生予測モデルを作成した。探索用データからは、転倒リスクアセスメントスコアと骨折リスクアセスメントスコアの二つが抽出できた。予測モデルは、①Cox回帰分析、②多重ロジスティック回帰分析の回帰係数で主意味づけし、カットオフ値をROC分析で設定したモデル、③二つのスコアのカットオフ値をROC分析で設定し両者がカットオフ値を超えた場合をハイリスクとするモデル、の3つを作成した。探索用データとは異なる解析用データにこれら3つのモデルを適用したところ、陽性適中率は③のモデルが最も高く、陰性的中率は①~③のどのモデルでも99%を超えていた。③のモデルでハイリスクと判定した患者と、そうでないと判定した患者の間には、転倒後重大外傷発生に関して有意な差を認めた。以上の結果を、学会発表した(平成24年度医療情報学連合大会)。解析の過程で、転倒事例を診療記録からいかにもれなく検出するかが課題となり、画像オーダエントリ情報利用する方法を開発し、英文論文で報告した(Toyabe S. BMC Health Services Research 12:448,2012)。
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