近年、各領域で診療ガイドラインが整備されつつあるが、その推奨内容と臨床現場には乖離が見られる。添付文書はじめとする薬物安全性情報の遵守程度も明らかではない。これらは「エビデンス・診療ギャップ」としてヘルスサービス研究の新たな課題として注目されている。診療報酬明細書(レセプト)は、経済的分析、医療費適正化の基礎資料として、また最近では疫学研究への活用に関心が高まりつつあるが、ヘルスサービス研究の視点からの活用はまだ少ない。本課題は、複数の健康保険組合の協力を得て構築しつつある大規模レセプト・データベースを用いて、診療ガイドラインや添付文書の遵守状況と関連要因を解明し、医療現場、保険者、関連企業、行政に継続的に情報を提示し得るシステムの開発を目指す。初年度は健保レセプトデータベースを対象に、ハッシュ値、ストリーミング関数を用いた暗号化名寄せプログラムに基づく連結可能匿名化、独自の傷病名辞書によるデータ入力後標準化の方法論と、同データベースを用いた麦角系ドパミンアゴニスト処方パーキンソン病患者における心エコー実施の知見を発表した。また、ステロイド長期処方患者における骨粗鬆症の予防的治療、下気道感染症におけるカルバペネム系抗菌薬の使用状況は論文投稿中、関節リウマチにおけるメソトレキセートの処方・抗CCP抗体の検査状況はデータ解析中である。2年度目はこれらの検討を進め、順次論文化を目指す。
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