修復的正義の概念の医療事故等に対する応用に関する研究を、その創始者である米国のハワード・ゼア教授のもとで行った。修復的正義は被害加害関係が生じた場合の加害者と被害者の対話・理解・赦しを経た関係性修復として開始されたが、近年では交通事故、学校での紛争解決、内戦後のコミュニティ再生、環境被害からの回復等様々な場面に応用されてきている。医療事故においては、医療者は委託された専門家として患者の体に侵襲行為を行うという点で、修復的正義が従来対象としてきた分野における加害・侵襲行為とは異なるのであるが、しかしながら、医療事故や医療の結果が予測されてない形で悪かったりした場合には、修復的正義の分野でこれまで研究されてきた被害者の心理、加害者の心理と似た心理状態が、医療事故の患者や患者家族と、医療者の間に起こり、修復的正義の分野が構築してきた「哲学」は応用可能であることがわかった。修復的正義の哲学を医療現場に応用した場合(1)どのような悪い結果(医療事故など)が起こったのか、(2)その根本原因は何か、(3)それに関する関係者(医療者のみならず患者や家族も含めて)の責任とニーズは何か、(4)未来に向かって何をしていくべきなのか、(5)その未来のプランに対して関係者のそれぞれができることは何か、という点を整理し話し合っていくという暫定的なモデルを構築した。 カリフォルニア大学バークレー校公衆衛生大学院の研究者の助言のもと、Community Based Participatory Research (CBPR)の医療事故等の真実告知や謝罪に関する研究への応用について研究した。医療事故等については、医療機関、医療者、加害者ともに傷つきが大きく、また繊細な話題であるため、外部の研究者が第三者として入って研究すること自体が当事者にとって難しい分野であるが、当該手法を用いると、当事者の視点を生かしてそのニーズに基づいた研究をすることができると考えられる。
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