研究概要 |
【目的】高齢者の軽度認知機能低下を早期に発見するための再現性、客観性に優れた生化学マーカーが求められている。本研究では脳に豊富に含まれる血清プラスマローゲン(Pls)と尿ミオイノシトール(MI)に着目した。前者はグリセロリン脂質のサブクラスの一つであり、後者は糖アルコールの一種でありPlsを主要構成脂質とするミエリン形成に深く関わると推測される。本研究の目的は、この2つの物質を用いて地域保健医療の現場において認知機能が低下した高齢者をスクリーニングするための簡便かつ侵襲性の低い生化学的検査を開発することである。 【方法】東京都健康長寿医療センターもの忘れ外来等の受診中の患者56人と地域在宅の研究協力ボランティア(健常高齢者)68人を対象にCDR(Clinical Dementia Rating)を用いて重症度判定した。CDR0.5群24人、CDR1群17人、CDR2群4人、CDR0群(健常者)55人を対象にコリン型(CP)とエタノールアミン型(EP)血清Plsの分別定量を行なった。また,空腹時二番尿を検体として尿MIを測定した。解析は年齢と教育年数を共変量として分散分析を行った。【結果】EPはCDR0~2群で順に69.3±2.2μM、62.2±3.1μM、52.0±3.9μM、44.2±7.9μMであり、CDR0群と1群、2群間で有意差が見られた。同様にMini-Mental State Examination(MMSE)により分類すると高得点群(28点以上:68人)、中得点群(24-27点:23人)、低得点群(23点以下:23人)で順に67.1±2.0μM、57.1±3.3μM、54.1±3.7μMであり、高得点群と中および低得点群間に有意差が見られた。一方、CPおよび尿MIについてはCDR、MMSEいずれの群間でも有意差は見られなかった。【結論】PlsのEPは健常高齢者から軽度認知症高齢者をスクリーニングできる可能性が示唆された。
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