研究概要 |
本研究の目的は、肥大型心筋症に焦点を当て、循環器内科専門医との連携の下、分子疫学的に両地区間の住民を対象に遺伝子変異の有所見率を比較検討することである。 そのために、平成22年度は、枯葉剤濃厚汚染地区であるベトナム中南部のBinh Dinh省Phu Cat県、旧米軍基地周辺に在住する40歳以上の男性500名から、1次スクリーニング検査として質問紙調査と心電図検査を実施した。この結果、4名が肥大型心筋症を疑わせる所見を示した。 平成23年度は、対照地区であるベトナム北部Ha Nam省Kim Bang地区においても、前年度の汚染地区における調査と同様に、無作為に抽出した40歳以上の男性約500名に対して、1次スクリーニング検査として質問紙調査と心電図検査を実施した。この結果、3名が肥大型心筋症を疑わせる所見を示した。 平成24年度は、上記2地区で肥大型心筋症が疑われた7名について、循環器内科専門医が携帯用超音波検査装置を用いて、現地の医療施設において2次検査を実施した。その結果、汚染地区の4名中2名のみの検査実施となった。(1名は死亡、他の1名は病名不明だが、入院中で検査の同意が得られなかった。)超音波検査の結果は、1名は高血圧症に伴う心筋肥大を認めたが、他の1名には心肥大の所見は認められなかった。対照地区の3名については、1名は心室中隔欠損症で手術経験のある人、他の2名にはいずれも心肥大の所見は認められなかった。 以上の結果、今回のスクリーニング検査の対象1,000名の中には肥大型心筋症を疑わせる人はいなかった。これは当初の予測に反する結果であるが、少なくとも、枯葉剤汚染地区で肥大型心筋症の有病率が特に高いことを疑わせる結果ではなかった。今後も、機会があれば、別の汚染地域で調査規模を拡大して同様な調査が実施できれば、今回の結果を裏づけることができるであろう。
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