本課題の最終目的である事務機器稼働時のエミッション曝露と心拍変動性(HRV)の関連を検討した。昨年度の検討から、超微小粒子(UFP)の連続的な個人曝露モニタリングは技術的に困難であるのて、当初予定していたオフィスでの実際の作業下における測定を断念し、人工環境室内で曝露濃度を制御しながら行う志願者曝露実験として、事前に昭和大学医の倫理委員会の審査を受けその承認のもとに実施した。被験者は本研究に関する十分な説明を行った上で参加することの同意が得られた男性8名(21~58歳)で合計12回の測定を実施した。実験時間は曝露の前後を含め90分とし、そのうち60分間に複写機の稼働、停止、強制換気を行い、曝露濃度を制御した。室内気の連続モニタリングを行い、UFP及びオゾン(O3)曝露濃度の最大値はそれぞれ20000個/cm3、0.002ppm前後であった。被験者の心拍間隔はホルター心電計により連続測定し、HRVを単位時間当毎の標準偏差成分として算出した。合わせて自覚症状のVAS測定と唾液中クロモグラニン量を測定した。複写機稼働開始前の値をベースライン値としたとき、稼働開始後のHRVは、ベースライン値との有意な差を示さなかった。また自覚症状として、匂いの感覚は稼働後に増加するものの、刺激感や不快感の訴えは少なく、ストレス感覚を反映するクロモグラニンAにおいても複写機稼働の影響は認められなかった。以上のことから、今回の曝露実験では、UFP等の複写機エミッションがヒトのHRVや自律神経系活動に影響を与えるという結果は得られなかった。しかし稼働開始後の推移に限定すると、HRVのパターンには曝露濃度変化に関連づけられる変化も認められることから、UFP濃度の時間変化データとHRVデータに対する数理モデルを用いた直接分析を含め、今後被験者数を増やすなど、なお検討を継続する必要があると考えられる。
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