本研究では、長期間、わが国の脳卒中の疫学研究を行っている住民コホートの過去数十年間に蓄積された眼底写真のデータベースをもとに、眼底画像解析システムを用いて網膜血管径を定量化する。そして、網膜血管径と脳卒中、特にわが国に多い穿通枝(ラクナ)脳梗塞の発症との関連をコホート内症例対照研究により検討し、本法が脳卒中の発症予測の精度を高める医療技術として有用であることを検証する。 平成22年度は、秋田、茨城、大阪の住民健診受診者の中から、1980年以降に穿通枝系梗塞を発症した112例、および発症例と性・年齢・地域・健診受診年をマッチさせた対照293例の計405例の発症前5年以内の眼底写真フィルムをデジタル化し、眼底画像解析システムを用いて網膜血管径(網膜中心動脈径CRAEおよび網膜中心静脈径CRVE)の計測を完了した。 CRAE平均値(±標準偏差)は症例149±15.5μm、対照153±15.0μm(両者の差の検定:P=0.026)、CRVE平均値は症例222±22.4μm、対照221±21.8μm(P=O.541)、CRAE/CRVE比の平均値は、症例0.67±0.07、対照0.70±O.O8μm(P=O.009)であった。すなわち、穿通枝系梗塞例は対照に比し、網膜中心動脈径と動静脈比が有意に低値であることが明らかになった。 今後、高血圧等の危険因子の影響を除外しての検討(交絡因子の調整)を行うとともに、網膜中心動脈径、動静脈比の層別化を行い、各層における脳梗塞発症のオッズ比を算出するとともに、脳梗塞発症確率が上昇するカットオフ値についての検討を進める。
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