研究概要 |
交通事故や労働災害,傷害事件などにおいて,受傷後ごく短い時間のうちに突然死をきたす事例を経験することがある.このようなケースで,解剖において致死的な傷病が見いだされなかった場合,死因として心臓性突然死(虚血性心疾患,急性心不全など)が挙げられることが多い.この際にしばしば用いられるのが,「損傷によるストレスが交感神経系や視床下部-下垂体-副腎系といったストレス反応系に以上を引き起こし,血圧上昇や不整脈等を介して突然死に至る」という説明である.また,虐待やネグレクトで経験するような脱水,タンパク欠乏性低栄養等の慢性ストレスも同様である.このような,軽微な外傷またはストレスから引き起こされる不整脈,興奮性せん妄などの病態は,死因となりえるにもかかわらず,形態的にはそのエビデンスが表れにくい特徴を持つ.そこで,全国の法医学者にアンケートをとり,そのような例がどれほどあるのか?そもそもそのような病態を知っているのか?などを調査した.その結果,52機関(回収率63%)から回答があり,「興奮性譫妄を知らない」と答えたのが19機関(36.5%),「用語だけは知っている」は26機関(50%),「そういった病態の解剖補助経験がある」が1機関(2%),「解剖執刀経験がある」が6機関(11.5%)であった.遺体からでは明らかな病態として判断しにくいことから,興奮性譫妄という名称・病態は法医学者の中でもそれほど浸透しているわけではないことが判明した.また,ラット心筋を用いて350種のmicroRNA(miRNA)をマイクロアレイを用いて網羅的に検索したところ,30%にあたる105種のmiRNAは死後も残存することが確認された.これらの中からバイオマーカーとなるものを選定することになる.
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