研究概要 |
覚醒剤(MA)乱用者の突然死例において、法医剖検にても有意な所見が得られることが少なくないために死因診断に苦慮することが多い。また,MA連用は心肥大等の多彩な心疾患を発症するが、その機序は未知である。そこで、MA継続投与マウスの心筋における分子病態を明らかにするためにProteome解析をおこなった。マウスに10mg/kgのMAを4週間連日投与し,最終投与30分後に心臓を採取した。心筋より蛋白質を抽出し、二次元電気泳動を行った。MA群のみに認められるスポットを採取し、MALDI-TOF-MSにてスポット蛋白質の同定を行った。同定した蛋白質について、mRNA発現量はq-PCR法にて検討し、また、蛋白質量はウエスタンブロット法を用いて定量した。MA群に特異的に発現する蛋白質として、Interferon Regulatory Factor4、Programmed Cell Death Protein4、Cyclin A2、Death Associated Protein kinase2を同定した。これらのmRNA量を検討したところ、両群に差は認められなかったが、蛋白質量ではMA群にいずれも有意な増加が認められた。このように遺伝子発現量と蛋白質量に乖離が認められたが、その意義については明らかにできない。ところで、これら4種類の蛋白質の増加は直接的もしくは間接的にプログラム細胞死(PCD)を誘導することが知られている。我々は既にMA継続投与によってPCDを生じうるmTOR経路が活性化していることを報告している。本結果より、MA継続投与によりマウス心筋ではmTOR経路だけでなく、多種多様なカスケードが活性化され、PCDが誘導されることが推定される。今後、組織学的手法を用いてMA継続投与心筋におけるPCDの様態を明らかにしたい。薬剤性QT延長症候群を誘発するとされているクロルプロマジンの投与により発現の変化が認められているカリウムチャンネルの遺伝子について検討したところ、マウス心臓におけるカリウムチャンネル関連の4遺伝子は、いずれも対照群と比較し、その発現が減少していた。覚せい剤の長期投与はマウス心筋細胞の活動電位に影響を与えていることが示された。
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