全身老化の指標としてのpre-frailty症候群の構成要因である認知機能、筋委縮、骨塩低下、バランス障害などと動脈stiffnessとの関係を検討した。具体的には、認知症スクリーニングテストの点数とbaPWVおよび頸動脈IMTとに有意な負の相関を認めた。認知症テストの軽度の低下でも、これらのパラメータは、有意な上昇を示しており、MCI(軽度認知症)における血管老化の関与が示唆される(2011の米国神経学会で報告予定)。また筋肉減少は、frailtyの主要な要因であり、CTによる大腿筋肉横断面積を筋肉量の指標とし、動脈stiffnessとの関連性を明らかにした。男性では、baPWVの上昇は大腿筋面積と負の相関を示し、一部にテストステロンが影響を与えていることを認め論文に報告した(Atherosclerosis 2010)。一方女性では、baPWVと骨塩量とが有意な負の関係を示すことを認めた。転倒リスク要因として、バランス機能と動脈stiffnessとの関連を検討した。重心動揺計による動揺性と片足立ち保持時間のいずれのバランス指標も、baPWVと相関した。さらに起立性の血圧変動を転倒リスクとして評価した。起立性の血圧変動とbaPWVとの間には、J型の関係を認め、論文化の予定である。さらにこれらの関係は、年齢で補正後にも認められており、動脈stiffnessが年齢とは独立したpre-frailtyのリスク要因であるという、研究申請の仮説が正しいことを示唆している。 また、これらの横断研究の結果を踏まえ、縦断面研究を開始した。転倒・骨折、脳心血管病の発症をエンドポイントとしたアンケート調査を開始した。全身老化指標としての動脈stiffnessの有用性と、予見性の検討を行う予定である。
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