スフィンゴミエリン合成酵素1(SMS1)は、ゴルジ体において、セラミドからスフィンゴミエリンを合成する酵素であり、スフィンゴ脂質の細胞内局在を調節する役割を持つ。近年、スフィンゴ脂質の代謝異常は、動脈硬化や不整脈などの心血管疾患の発症に関与することが知られつつある。しかし、心血管疾患を発症する際のスフィンゴ脂質の細胞内オルガネラ局在変化や、それに伴う細胞内シグナル伝達経路の活性化に関しては、これまでに明らかにされていない。そこで、本研究では、SMS1のノックアウトマウス(SMS1-KOマウス)をモデルマウスとして使用し、スフィンゴ脂質の細胞内オルガネラ局在変化や、それによって誘導されると予想される酸化ストレスが、心血管疾患の発症に関与しているか調べた。まず、SMS1-KOマウスの膵臓に関して、ミトコンドリアを回収してスフィンゴ脂質の量を調べたところ、野生型マウスのミトコンドリアに比べて、セラミド類の量が増加していた。この結果から、心血管疾患に関わる他の臓器(心臓や血管など)においても、SMS1-KOマウスのミトコンドリアでは、セラミド類の量が増加していると予想された。さらに、我々の別の研究により、SMS1-KOマウスでは膵臓や脂肪組織などにおいて酸化ストレスが亢進していることがわかりつつあったため、SMS1-KOマウスの心臓や血管においても酸化ストレスが亢進しているか調べた。しかし、SMS1-KOマウスの心臓や血管では酸化ストレスの顕著な上昇は観察されなかった。一方で、SMS1-KOマウスの血管について、アセチルコリン添加による血管弛緩実験を行った。その結果、SMS1-KOマウスの血管は、アセチルコリンにより弛緩されにくい傾向のあることがわかった。
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