癌や生活習慣病の病態において、エピジェネティクス制御が重要な役割を果たしていることが明らかにされてきた。転写因子とコファクターは、クロマチン機能調節・核内シグナル制御を介して標的因子を調節する。実際に、PPAR-γやFOXO、HIF-α、p53など数多くの転写因子が、癌化のプロセスだけでなく細胞内外の代謝制御に関与している。この研究の特色として、癌と生活習慣病の共通分子シグナル経路に対して代謝環境応答という新たな切り口からアプローチする。具体的には、代謝環境変化時のp53転写因子複合体ネットワークの生化学的解析とゲノムワイドでのepigenetics解析を密接に結びつけて解析する。実際に、次世代型シークエンサーを用いたChIP-seqとトランスクリプトーム解析による細胞内代謝を制御するp53新規下流遺伝子の探索を試みた結果、ヒト17086遺伝子中、207遺伝子に有意な発現誘導が認められた。未報告の新規の下流遺伝子候補が多数認められた中で、興味深いものとして細胞内代謝に関与する酵素phosphate activated glutaminase(GLS2)やsulfatase、dihydropyrimidinase-like 4が見いだされた。GLS2遺伝子は、正常肝細胞・脳・膵臓などに存在し、2型糖尿病モデルで膵臓に発現が亢進しており、糖・エネルギー代謝との関わりが示唆されている。これらの結果は、GLS2/Sulfatase/DPYSL4などの細胞内代謝酵素の発現誘導を介した、転写因子p53によるCell Metabolismの制御機構という斬新な切り口で、糖尿病・内分泌代謝疾患のエピジェネティクスとp53新機能を結びつける可能性を示唆している。
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