近年自閉症、アスペルガー症候群、そしてその他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害など様々な発達障害が注目を集めている。出生前の原因としては受精から胎児が形をなすまでの遺伝子の異常と、胎児に感染症や薬物をはじめとする負荷、すなわち環境要因によるものに分けられる。そのうち、胎盤を通って胎児に影響が及ぶ薬物、細菌、ウイルスなどについては研究が進んでいるが、胎児が直接受ける感覚入力の影響についてはほとんど不明であるそもそも神経回路が未完成である胎児期の脳においてどの程度の信号伝達が起こっているのかさえ不明である。これはモデル動物を用いた研究でも胎児脳の神経回路の機能的成熟を確認する手段がないことに起因している。本研究ではマウス胎仔の母体外標本を用いて、胎仔に直接与えた自然刺激に対する胎仔脳の神経細胞の反応を記録することで、胎児期における機能的神経回路の完成の程度を明らかにするとともに、有効な刺激のスペクトラムを明らかにする。その結果に基づき、母体内の胎仔が受けた感覚入力が、その後の脳の発達に及ぼす影響評価することの出来る系の開発を目指した。 電気穿孔法を用いることで基底核隆起由来の抑制性ニューロンのin vivo観察に成功した。E16.5の胎仔をゲルで包埋した状態で観察をおこなったが、顕微鏡観察する際に、水銀ランプを用いて光を照射すると(青色を通すフィルター使用下)、胎仔が体を動かそうとするためか、頭部が動くことが確認された。このことは開眼していないにもかかわらず、胎仔が何らかの機構を介して光に反応していることを示している。しかしながら、残念ながら光照射と細胞移動に関して明確な因果関係を見いだすことは出来なかった。 これには様々な理由が考えられるが、更なる検討が必要である。
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