ヒトゲノム中に存在する可動因子であるレトロトランスポゾンは、脳神経系の発達過程において活性化され、多様な脳神経系細胞の中でも特に神経細胞でのみ転移を起こすことが示されている。転移活性の変動は、脳神経系の高次機能に重大な影響を与えると考えられるが、精神疾患患者試料での検討は充分なされていない。本研究では、レトロトランスポゾンの中でもLINE-1に焦点をあて、患者死後脳における転移活性の評価を行う。 本年度は、統合失調症、双極性障害、大うつ病患者及び健常者凍結死後脳組織(前頭葉部位各15例)から抽出したゲノムDNAを用いて、LINE-1配列のゲノムコピー数定量をTaqman法により行った。肝臓組織と比較したところ、統合失調症患者において脳での有意なLINE-1ゲノムコピー数の上昇を認めた。気分障害では、大うつ病患者で増加の傾向が認められ、双極性障害では有意差は認められなかった。また、疾患群の中でも、特に高いレベルでゲノムコピー数の増大を検出している患者(統合失調症患者2名および大うつ病患者1名)を同定した。 次年度以降は、精神疾患患者脳試料の独立サンプルを用いて同様の定量を行い、結果の再現性を検討する。また、LINE-1のコピー数が高いレベルで検出された患者試料においては、今後ゲノム中の挿入部位が問題となる。そこで、LINE-1配列の挿入部位を網羅的に検討するゲノムマッピングを行う実験系の確立を目指していく。
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