ヒトゲノム中に存在する可動因子であるレトロトランスポゾンは、脳神経系の発達過程において活性化され、多様な脳神経系細胞の中でも特に神経細胞でのみ転移を起こすことが示されている。転移活性の変動は、脳神経系の高次機能に重大な影響を与えると考えられるが、精神疾患患者試料での検討は充分なされていない。本研究では、ヒトレトロトランスポゾンの中でも特に研究が進展しているLINE-1に焦点をあて、患者死後脳における転移活性の評価を行った。 最終年度である本年度では、死後脳神経細胞におけるレトロトランスポゾンLINE-1のコピー数定量を完全に終了し、統合失調症患者での有意なコピー数上昇の知見の追試を行った。LINE-1上の複数の異なる領域で設計したprobeや異なるinternal controlを用いた検討でも上昇を確認した。また、投薬効果の検討の一環として、神経系細胞株に抗精神病薬を投与・培養を行いLINE-1コピー数の検討を行った。代表的な抗精神病薬であるハロペリドールやリスペリドン投与ではコピー数の変動は認められなかった。今後LINE-1のゲノム上の挿入位置に着目した研究が必要となると考えられる。ゲノム上の挿入位置決定の予備的検討として、肝臓ゲノムと脳から抽出したゲノムの全ゲノム配列解析を行い、トランスポゾンの検出と挿入パターンの比較を行った。現在のところ統合失調症患者群での特徴的なLINE-1の挿入が検出できており、今後詳細な解析を加えて行く予定である。また、これまでの研究結果をとりまとめ論文投稿中である。
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