在宅医療において、早期発見、早期治療のためのX線診断は不可欠である。しかし、従来のX線撮影装置は、高電圧電源とX線管球が必要なため、ポータブル型のものでさえ大きな装置になり、家屋等でのX線撮影は困難を伴う。一方で、高電圧電源とX線管球を使わずにX線を発生させる方法に、焦電性結晶を用いる方法がある。これを用いれば、X線撮影装置を大幅に小型化できる可能性がある。本研究では、従来とは全く異なる原理により、X線撮影装置を大幅に小型化することによって、AED(自動体外式除細動器)のように持ち運びが可能で、撮影場所を選ばない、在宅医療、救急医療等において撮影可能な可搬型X線撮影装置の開発を目指す。今年度は、焦電性結晶によるX線の発生に関して、気圧に対するX線の発生効率、X線発生の持続時間を調べた。気圧を10Paから25Paまで変化させたとき、気圧が低いほど、発生電荷に対するX線の発生効率が高いことがわかった。また、X線発生の持続時間は、10Paから15Paでは数十秒、20Paから25Paでは3秒以下であることがわかり、気圧を変化させることでX線発生の持続時間、すなわちX線撮影時間を制御できることがわかった。また、焦電性結晶のc軸方向の厚さが0.5mmの場合、最大発生電圧は20kV程度であったが、結晶のc軸方向の厚さを5mmにすると60kV程度の電圧が得られ、X線撮影が可能な電圧を得ることができた。焦電性結晶により、最大エネルギー60kVのX線を発生させてエネルギースペクトルを測定し、臨床用X線撮影装置で測定したエネルギースペクトルと比較すると、同等の強度のX線が得られていることがわかった。これにより、焦電性結晶によるX線撮影装置の作製が可能であることを示した。
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