心筋梗塞に対するインジェクタブルゲル注入療法が注目されているが、梗塞部位リモデリングの抑制のために最適なゲル化材料の特性は明らかとなっていない。ポリアルギン酸など非分解性のインジェクタブルハイドロゲルを心筋梗塞部位へ注入することで心機能が回復することが報告されているが、長期にわたって残留するこれらの材料が最適とは考えにくい。本プロジェクトでは、さらに、炎症性が小さくてかつ分解することにより長期炎症を回避できるゲルの開発と評価を進めた。低炎症性を期待して生体内に存在するタンパク質の高次構造を模倣した自己組織化ペプチドを検討し、さらには、αヒドロキシ酸を主成分とするインジェクタブルゲルも開発し、それらの、感温性およびゲル化挙動について詳細に検討するとともに、皮下埋入試験による炎症誘起性の評価とその治癒能力について検討した。 心筋梗塞モデルラットは、左冠動脈を結紮して作製した。結紮してから4週間後に心臓機能の指標である左室短縮率(% FS)を超音波エコー装置にて計測し、% FSが25%以下のものを心筋梗塞であると判断した。その後、30Gの注射針を用いて生分解性ハイドロゲルを心筋梗塞部位へ100μl注入した(n=4)。コントロール群としてアルギン酸ゲル(n=5)、または生理食塩水(n=5)を用いた。注入から4週間後に、% FSの測定ならびに摘出した心臓の組織学的評価により治療効果を検討した。生分解性ハイドロゲル注入群では、% FSは1か月間で、生理食塩水の場合と比較して有意に改善しており、、開発した生分解性ハイドロゲルは梗塞部位への注入により心機能を有意に改善できる。さらに、炎症系細胞密度は、アルギン酸注入群より有意に減少しており、新たなハイドロゲル群は高い% FSの回復と低い炎症性が達成される有用なシステムであることが示唆された。
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