がんに対する標準治療の進歩により、治療成績は格段に向上したが、一方で一部の難治性悪性腫瘍は未だ予後不良である。悪性胸膜中皮腫(MPM)はその代表的疾患であり、胸腔を這うように進展し、その浸潤機構にはウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベータ(uPA)が重要であることが知られている。我々は独自の組換えウイルス技術により、uPA選択性に腫瘍を殺傷する新規ウイルス(バイオナイフ)を構築し、その治療効果をヒトMPMマウス同所性モデルにより検討した。バイオナイフは異なる二種のヒト悪性中皮腫(MSTO-211H、H226)に対し有効であり、強力なアポトーシス誘導効果を示した。興味深いことにH226はuPA受容体(uPAR)の発現は認めるがuPAの発現は検出できないにも拘わらず、バイオナイフに感受性であり、バイオナイフの感染自身によりuPA発現が強力に誘導された。興味深いことに、この作用はNF-κB活性阻害剤およびRNAウイルスセンサーであるRIG-Iヘリカーゼのdominant negativeであるRIG-ICを発現するウイルスにより消失した。以上から、バイオナイフはuPA活性を標的にしているにも関わらず腫瘍細胞に必ずしもuPAが発現を要せず、がんが特異的に発現するuPARがあれば強い抗腫瘍効果を発揮することが明らかとなった。現在以上の知見をもとに、臨床試験用GMP製剤の準備を開始している。
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