研究概要 |
我々が新規開発したハイドロゲル(ナノコンポジット型ヒドロゲル:NCゲル)は,クレイナノ粒子を用いた有機・無機ネットワークの形成によりハイドロゲルの欠点であった力学的脆弱性を克服し,安全性の高い新規医療材料として,人工弁などのインプラント材用への応用が期待されている.本研究では,NCゲルの長期埋め込み時における周囲組織への影響を検討することを目的とし,成ヤギでのNCゲル長期皮下埋入試験を行った. 本実験により,すべての埋め込まれたNCゲル周囲に,壊死や強い炎症など周囲皮下組織への不可逆的な影響は認めず,更にゲル自体の崩壊や変性も認められなかった.組織学的評価においては,力学的に堅い表面を有するゲルは,埋め込み後1ヶ月より膠原繊維を主体とする菲薄な結合組織膜に覆われ,炎症細胞の浸潤は少なく,安定した状態であることが観察された.このような周囲組織の組織学的所見は6ヶ月後の評価においても同様であった.また比較的柔らかな表面を有するゲルにおいては,堅い表面を有するゲルと比較し,埋め込み初期にゲルとの境界部に異物性炎症が認められ,ゲル内へのマクロファージや線維芽細胞の乳頭状の浸潤像が認められた,6ヶ月後の評価では,ゲル内の大部分を繊細な線維性結合組織で置換されているのが観察され,周囲組織との境界は不明瞭であった.新規開発されたNCゲルは,非常に優れた力学的特性に加え,体内埋め込み時における長期安定性も優れていることが示され,周囲組織に影響の少ない体内埋め込み材料として有用な材料と考えられた.また,力学的に柔らかい性状のゲルにおいては,6ヶ月の観察で生体組織と融合している所見が認められ,新しい生体材料としての可能性も示唆された.
|