高齢化が進む現代において、脳卒中・脳腫瘍といった脳神経疾患によって生じる脳機能障害を予測・予防する手法の確立が望まれる。脳機能解剖学的・生理学的ネットワークの検索と治療前後の比較を行い、それによる脳機能代償機構の解明を行うことを目的とした。 具体的には、言語優位半球側の縁上回近傍に腫瘍を認めた症例を対象として、術前に高磁場MRI画像上に機能的MRI、脳磁図、PETの結果に基づく言語機能野を同定した。次に、DTI tractographyを行って、同側の上縦束を解剖学的に同定することで、皮質機能野のネットワークを解析した。脳機能部位の温存と必要な病変の最大摘出を目的として覚醒下にて外科手術を行い、Cortico-cortical evoked potential (CCEP)を隣接・遠隔皮質から記録することにより、皮質領域間のネットワーク診断を行った。また、術前だけでなく、退院までの術後期間中と術後6ヶ月目を目標として、前述のtractographyを繰り返して行い、手術前後に行った脳機能の評価とともに、それらの変化を比較・検討することで解剖学的情報の意義を検証した。Tractographyで上縦束が切断された症例では伝導性失語を生じ、縁上回を通っている上縦束が障害された症状であることが示唆された。また、術後の画像データや臨床経過を比較する目的のためには、術前・術中に得られたデータを保管して、将来の解析やネットワーク機構解明につながるような網羅的なデータベースを、過去の症例も含めて作成・整備した。これらの症例の検討から、MRIの陽性所見と複数検査modalityの有効な組み合わせで、より良好な結果が得られていることがわかった。以上、てんかん症例と腫瘍症例において記録を行なって得られた結果から、下記の一群の学会発表を大学院生とともに行なって、現在、論文作成と投稿準備中である。
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