本研究では、様々な系統の細胞に分化誘導可能なiPS細胞に着目し、肉腫患者正常体細胞より樹立したヒトiPS細胞に対して腫瘍特異的融合遺伝子を、発現誘導システムを用いて導入し、改変iPS細胞を作製する。そして様々な系統の異なる分化段階において融合遺伝子の発現を誘導し、その表現型及び遺伝子発現プロファイルの変化を把握し、同一個体に発生した腫瘍のプロファイルと比較することで、細胞起源と融合遺伝子との関連性について明らかすることを目的とした。平成22年度には下記の成果を得た。 1. 肉腫患者体細胞由来iPS細胞の樹立 SYT-SSX融合遺伝子陽性の滑膜肉腫患者より、手術時に皮膚組織を採取し、4因子(Oct3/4、Sox2、Klf4及びc-Myc)を、レトロウィルスベクターを用いて導入しiPS細胞を作製した。 2. コントロールiPS細胞への肉腫融合遺伝子導入と肉腫融合遺伝子安定発現細胞株の樹立 エレクトロポレーション法を用いて、コントロールiPS細胞にSYT-SSX及びEWS-FLI1融合遺伝子を導入し、薬剤耐性マーカーを利用して薬剤選択を行い、安定発現株の樹立を試みた。しかし、発現は一過性であり、サイレンシングを受けることが判明した。 3. Tet-ON iPS細胞株の樹立 そのために、ドキシサイクリンの存在下でのみ遺伝子発現の誘導ができる発現誘導システムを導入することを計画し、まずSYT-SSX1及びSYT-SSX2融合遺伝子をTet-ON発現ベクターに導入したものを構築した。 平成23年度は、上記の誘導ベクターをiPS細胞に導入し、解析を行う予定である。
|