静脈血栓塞栓症発症のリスクが高い整形外科手術中に、手術肢にも適用しうる新たな理学予防法として、末梢神経電気刺激法(Thromboprophylactic Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation : TpTENS)を開発し、その有用性、安全性に関するランダム化比較試験を遂行した。平成22年度は、当院で人工膝関節置換術を行う患者のうち、研究計画で既定した適応を満たし、プロトコルに同意した患者54例に対して行った。症例を本法の有無によって、S群(あり):25例、C群(なし):29例の2群に割り当て、評価項目として、術直後の血清D-dimer値と可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC)値を測定し、術翌日の下肢静脈エコーで血栓の有無を確認した。結果、術直後のD-dimer(μg/ml)はS群:5.9±4.2(平均±標準偏差)、C群:11.6±9.1で、S群において有意に低値であった(p=O.01)。SFMC(μg/ml)はS群:3.8±2.5、C群:5.2±3.2で、S群の方が低い傾向にあった(p=0.21)。術翌日の血栓発生頻度は、S群で25例中4例(16%)、C群で29例中10例(34%)であった(p=O.12)。C群の1例は術直後に症候性肺塞栓症を生じた。途中経過ではあるが、本法により効率的に強い筋収縮を繰り返すことによって、術中の静脈うっ滞予防だけでなく、術直後の凝固・線溶系亢進も抑制できる可能性が示唆された。 既存のガイドラインに沿った予防を行っても症候性肺塞栓症が発生しうることを踏まえると、本法の併用は包括的な周術期VTE予防のために極めて有用であると思われる。機器開発に関しては、8×5×2cmの小型刺激装置を試作して臨床応用を開始しており、今後さらなる洗練化を目指して改良を重ねている。
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