静脈血栓塞栓症発症のリスクが高い整形外科手術中に、手術肢にも適用しうる新たな理学予防法として、末梢神経電気刺激法(Thromboprophylactic Transcutaneous Electrical Nerve Stimulation : TpTENS)を開発し、その有用性、安全性に関するランダム化比較試験を平成22年度に引き続いて遂行した。平成23年度で予定したサンプルサイズを達成した。人工膝関節置換術を受ける患者90例をTpTENSの有無によって、S群(あり):45例、C群(なし):45例の2群に割り当て、評価項目として、術直後の血液学的血栓マーカー(D-dimerと可溶性フィブリンモノマー複合体(SFMC))を測定し、術翌日の下肢静脈エコーで血栓の有無を確認した。術直後のD-dimer(μg/ml)はS群:5.8[4.6-10.1](中央値[四分位範囲])、C群:9.3[5.5-15.0]、SFMC(μg/ml)はS群:3.7[2.4-4.7]、C群:4.9[3.8-8.1]で、いずれもS群において有意に低値であった(p=0.01)。術翌日の血栓発生頻度は、S群で5例(11%)、C群で14例(31%)であった(p=0.02)。TpTENSによる合併症は認めなかった。本法により効率的に強い筋収縮を繰り返すことによって、術中の静脈うっ滞予防だけでなく、術直後の凝固・線溶系亢進も抑制できる可能性が示唆され、本法の併用は包括的な周術期VTE予防のために極めて有用であると思われる。機器開発に関しては、平成22年度に試作した小型刺激装置を臨床ニーズに応じて適宜改良した。さらに手術室以外での使用も視野に入れて、汎用性、利便性のあるものにするべく検討を重ね、下肢浮腫改善や下肢手術後の疼痛緩和を目的としたトライアルも行って一定の手応えを得た。
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