研究概要 |
Lansoprazole(LPZ)はProton pump inhibitor(PPI)として,本来P-ATPaseを介した作用を有する.しかし,前年度の研究成果から,LPZはマウスRAW264.7マクロファージにおいてP-ATPase阻害とは異なるメカニズムで抗炎症効果を有することが明らかとなった.本年度は,そのメカニズムについて詳細に解析した. 胃粘膜細胞や好中球では,PPIはreactive oxygen species(ROS)を抑制することで抗炎症作用を有することから,マクロファージでもLPZがROS量へ影響しているか検討した.LPZのみを添加した群ではROS量に影響を及ぼさなかった.lipopolysaccharide(LPS)刺激によって細胞内ROS量は約40倍に増加したが,その増加量はLPZを添加することによって有意に低下した.次に,LPS刺激によるNOおよびPGE2産生増加に対するROSの役割を明らかにするために,LPSによって上昇するROSをさまざまな抗酸化剤で抑制し,NOおよびPGE2量への影響を検討した.NO量はNACで抑制されなかったがNADPH oxidaseの抑制剤であるDPIでは著明に抑制された.しかし,PGE2量はNACおよびDPIのいずれも抑制されなかった.これらの結果から,LPS刺激によるNO産生において、NADPH oxidaseが関係している可能性が示唆された.さらに,LPZのNADPH oxidase活性に対する影響を検討した.LPS刺激でNADPH活性が約2倍に上昇したが,LPZの添加によって活性は低下した.NADPH oxidaseはROSであるsuperoxideの産生に関与する酵素であるため,X/XOによるsuperoxideによって誘導されるNO産生に対するLPZが抑制効果を検証した.X/XO刺激に対して上清中のNO量は上昇したが,LPZはNO産生に対して抑制効果がなかった.これらの結果からLPS刺激におけるNO産生はNADPH oxidase依存性であり,LPZはNADPH oxidase活性を抑制することでNO産生を抑制することが明らかになった. 以上の結果から,LPZは,これまで臨床応用されてきたP-ATPase阻害とは異なるメカニズムで抗炎症効果を有することが明らかとなった.LPZは胃腸疾患のみならず、他の炎症性疾患へ適応が広がる可能性がある.
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