研究概要 |
筋・骨格を機能的につなぎ、可動させる組織として、腱・靭帯およびこれらを構成する細胞は、生物学的にも非常に興味深い対象であり、かつ医学的にも、肩腱板、上腕骨外側上顆、アキレス腱などの炎症および断裂の治療面からみても重要な組織である。我々はこれまでに腱・靭帯に特異的に発現する転写因子としてMohawk(Mkx)を同定して、そのノックアウトマウスを作製・解析し、ノックアウトマウスでは腱が低形成になること、電子顕微鏡観察により腱のコラーゲン原線維の径が小さいこと、腱細胞数は変わらず、腱の主要基質であるI型コラーゲン量が減少することを見出し、Mkxが腱の形成に重要な転写因子であることを明らかにした(Ito Y,et al.Proc Natl Acad Sci U S A. 2010)。このMkxの腱・靭帯における詳細な機能を明らかにするために、Mkxの上流・下流遺伝子のスクリーニングを行った。上流遺伝子のスクリーニングは、Mkx遺伝子周辺の良く保存されたゲノム領域にルシフェラーゼ遺伝子をつないだレポーターベクターを用いて約6000遺伝子の発現ベクターを用いたルシフェラーゼアッセイシステムにより行った。その結果、Mkxの発現を誘導する候補遺伝子を同定した。また、Mkx遺伝子座にVenusをノックインしたヘテロおよびホモマウス胚からVenus陽性細胞をソーティングし、マイクロアレイ解析を行った結果、骨・軟骨分化に関与するいくつかの遺伝子がホモマウスにおいて発現上昇していることが分かった。Mkxは転写抑制因子であることが示唆されているが、以上の結果からMkxは骨・軟骨への分化を抑制して腱・靭帯への分化に寄与している可能性が考えられた。
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