| 研究概要 |
本年度は5～7週齢雄性C57BL/6マウスの右大腿後面皮下にLewis Lung Carcinoma (LLC)を1×10^6個移植し、7日後および14日後にmagnetic resonance imagingを用いて腫瘍体積を測定した。このモデルの背部皮下にLLC移植と同時に浸透圧ポンプ(Alzet)を移植し、モルヒネ塩酸塩0.1,0.3,1,3,10 mg/kg/dayを持続皮下投与する群と生理食塩水(コントロール群)を持続皮下投与する群に分けた。7日後の測定では各群間の腫瘍体積に有意差は認められなかった。14日後の測定ではコントロール群に対して0.1-3 mg/kg/dayの群では有意に腫瘍体積が小さかったが、10 mg/kg/dayの群では有意差を認めなかった。
モルヒネの全身投与が悪性腫瘍の進展・転移を促進するとの報告(Gupta et al., Cancer Res, 2002)がある一方、抑制するとの報告(Koodie et al., Am J Pathol, 2010)もあり、動物種・癌腫・接種部位などにより様々である。血管新生・免疫調整などの面からいくつかの機序が報告されているが、様々な投与量を設定して悪性腫瘍の進展を評価したin vivoの結果は今まで報告がない。
今回我々が用いた低容量のモルヒネ全身投与では悪性腫瘍の増大を抑制したが、高容量(10 mg/kg/day)のモルヒネ全身投与では悪性腫瘍の増大を抑制しなかった。この結果からモルヒネが悪性腫瘍の進展に及ぼす効果は2層性であることが示唆され、癌の周術期や終末期など比較的大量のモルヒネを使用する際には悪性腫瘍の進展を促進する可能性が示唆された。
以上の現象について血管新生を始めとする悪性腫瘍の進展機序を更に明らかにすることにより、癌治療におけるオピオイドの適正使用について重要な知見が得られるものと考えられる。
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