研究概要 |
非侵襲的神経イメージング(non-invasive neuroimaging)の中で、自然に近い環境で施行できる近赤外線分光法(fNIRS)を用いて、排尿に応じた脳活動を測定する。排尿に応じたfNIRS脳活動測定は、世界で初めての試みである。従来明らかでなかった、過活動膀胱、膀胱痛、神経因性膀胱、心因性排尿障害などによる膀胱知覚の異常をfNIRS脳活動測定により明らかにできる可能性がある。今年度下記の研究を行った。 目的-抗コリン薬の高齢者認知機能に対する影響が広く知られている。一方、新規抗コリン薬(頻尿・尿失禁治療薬)イミダフェナシンの認知機能に対する影響は良く知られていない。我々はこの点について検討した。 対象と方法-神経疾患によりOAB(排尿筋過活動)を有する62名(男性25名女性37名;平均年齢70歳)に対して、イミダフェナシン0.2mg/日を3か月間投与前後で、排尿症状の問診と認知機能検査(MMSE,FAB,ADAScog)を施行;このうち35名に対して、ウロダイナミクス施行(8名で前頭葉の近赤外線分光同時測定)した。 結果-イミダフェナシン投与後、A)排尿機能の問診:夜間頻尿(2.6→2.0,p<0.05),尿意切迫感(毎日→週1回,p<0.05),排尿QOL(困る→少し困る,p<0.05)が改善;ウロダイナミクス:排尿筋過活動の頻度は不変(22/35→19/35)だが、初発尿意(223ml→266ml,p<0.05)が増大;fNIRSにより、検査開始~初発尿意間の前頭葉(Brodmann 8,10野上部)血流が増大;B)認知機能:変化なし(MMSE21.8→22.1,FAB10.7→11.1,ADAScog14.8→14.4)。 結語-末梢性ムスカリン受容体遮断薬イミダフェナシンは、中枢への移行が少ないことが報告されている。一方、頻尿患者では前頭葉排尿中枢の不活化がみられる。本検討の結果から、イミダフェナシンは膀胱末梢遠心/求心路遮断と、2次的排尿中枢活性化により、認知機能を変化させることなく、高齢者の夜間頻尿を改善させたと考えられた。
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