研究概要 |
受精卵は細胞核リプログラミング現象に関して2つの非常に興味深い事象を提示している。卵子と精子が融合(受精)後雌性及び雄性由来の前核を形成する。同一細胞内でありながら前核内では劇的に異なるエピジェネティック変化が起こる。雄性前核内では受精後能動的脱DNAメチル化が雄ゲノム全体でおこるのに対し、雌性前核ではDNAメチル化が維持され、細胞分裂に依存する受動的な脱DNAメチル化が引き起こされる。これまで、前核微量サンプルから高品質のゲノムを抽出する方法を確立した。網羅的遺伝子発現データの解析から、前核成分では、Wntシグナル伝達系が発現量高値であった。前核と細胞質成分ではそれぞれで発現が有意に高い集団があり、細胞質成分で発現が高いグループには、DNA methyltransferase 3l, 3a, 3b (Dnmt3l, Dnmt3a, Dnmt3b)やPou5f1やSox2などのリプログラミング因子が多数含まれていた。結果として、これまで知られてきたリプログラミングの多くは、細胞質成分に含まれており、前核成分には新たなリプログラミング因子が存在することが強く示唆された。さらに、前核に“閉じ込められていた”これらリプログラミング関連因子は想定以上に多数におよび、30倍以上の差で前核内に極めて高発現している遺伝子数は200近くにも達した。これまで、微量生体試料である受精卵の雌雄前核に含まれる遺伝子転写産物を網羅的遺伝子発現解析する系を構築した。これによりこれまで捉えることが不可能であったリプログラミング関連因子を捉えることができた。
|