研究概要 |
平成22年度の研究では、一過性内耳虚血の動物モデル(スナネズミ)を使用して、ナノカプセル型人工酸素運搬体(LEH:liposome enveloped hemoglobin)の内耳障害防御効果を検討した。15分間の虚血負荷30分前に、2ml/kgの高酸素親和性LEH(high affinity LEH, h-LEH)、あるいは低酸素親和性LEH(low affinity LEH, 1-LEH)、同種赤血球、生理食塩水を動物に静注し、ABR閾値(聴力)や内耳への影響を探索した。一過性虚血による内耳障害は1日目が最高であり、4日目、7日目と徐々に軽減した。生理的には障害は高音域ほど高度であり、32kHz,16kHz,8kHzでのABR閾値は高く、これに相応して、組織学的にも基底回転での有毛細胞の脱落(外有毛細胞よりも内有毛細胞の脱落が主)が高度であった。一方、内耳防御効果はh-LEHが最高であり、ついで1-LEH、同種赤血球、生食の順であった。すなわち虚血前にh-LEHを投与すれば、虚血によって惹起される内耳障害はかなりの程度まで軽減されることが分かった。平成23年度の研究では虚血後にこれらの薬剤を投与し、その効果を確かめる予定である。これまで我々は突発性難聴の鍵は虚血障害の防護・再生にあると考え、一貫してこの課題の研究を進めてきた。今回の末梢細胞にまで酸素を運搬・供給するというという斬新な発想は、これまでの虚血障害プロセス遮断に主眼を置いた研究とは視点が異なり、不足する酸素を積極的に供給して治癒促進をはかるというもので突発性難聴の治療戦略構築におけるブレークスルーとなりうる。
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