研究課題/領域番号 |
22659309
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
小川 郁 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (00169179)
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研究分担者 |
藤岡 正人 慶応義塾大学, 医学部, 助教 (70398626)
神崎 晶 慶応義塾大学, 医学部, 講師 (50286556)
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キーワード | 耳科学 / 聴覚医学 / トランスレーショナルリサーチ / 自己免疫 / 国際情報研究 |
研究概要 |
当研究では免疫寛容の破綻をin vivoで再現する実験系として他臓器で実績のある血球凝集素(HA)強制発現系を内耳に応用し、自己免疫性難聴遺伝子改変動物の作成を進めてきた。本年度は内耳有毛細胞に外来抗原HAを発現するMath-HAマウスとキラーT細胞が同抗原を認識するTCR-CL4マウス用いて予備実験を行った。1)キラーT細胞による有毛細胞への突然の免疫寛容破綻(自己免疫)により12時間以内に完成する高音漸減型の難聴が誘導された:TCR-CL4由来のリンパ球の静注により、Math-HAの体内ではそれまで「自己」だったHA陽性の有毛細胞を突然「非自己」と認識するキラーT細胞が出現することになる。当検討ではリンパ球移入から12時間という短時間で難聴が完成し、急性の自己免疫の発動により突発性難聴に酷似する経過をたどる内耳性難聴が生じることが示された。2)キラーT細胞において有毛細胞への免疫寛容破綻が慢性的に持続する系では、緩徐進行性で高音急墜型の内耳性難聴が誘導された:直接交配で得たMath-HA;TCR-CL4二重マウスでは、体内のキラーT細胞の40%がつねにHA発現細胞=内耳有毛細胞を常に非自己として攻撃する状態になる。このマウスでは生後すぐには難聴を認めず、月齢を経てはじめて難聴を呈した。難聴は高音に優位で基底回転の外有毛細胞が特に減少しており、日常臨床における両側性特発性難聴と酷似する病態・経過を呈していた。これらは自己免疫の発動が難聴の原因となることをprospectiveに証明する初の結果であり、予備実験ながらも急性・慢性双方の内耳性難聴モデルが得られたことは意義深い。突発性難聴や特発性難聴の原因解明が期待されると同時に、分子生物学・発生工学を駆使した現代的手法による自己免疫性難聴へのアプローチとして大きなインパクトが見込まれる。
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