本年度は、マウス網膜前駆細胞にてCreリコンビナーゼを発現するDkk3Creマウスと、VEGFR2コンディショナルノックアウト(VEGFR2-flox)マウスの交配により得られたDkk3Cre;VEGFR2-floxマウスを解析し、網膜神経・グリア細胞におけるVEGFR2シグナルの重要性について検証した。Dkk3Cre;VEGFR2-floxマウスにおける網膜電図(ERG)検査では、生後1ヶ月時点でコントロール群と差を認めないのに対し、生後6ヶ月時点では光刺激に対する応答が完全に消失することが確認された。また、組織学的解析によっても、生後6ヶ月時点で神経網膜の顕著な菲薄化および網膜血管の退縮が認められた。これらの結果から、VEGFR2は成体網膜におけるミュラーグリア細胞の恒常性維持に重要であることが示唆された。一方、Tlxノックアウト(KO)マウスにおいても同様に網膜神経組織の菲薄化が認められるため、Dkk3Cre;VEGFR2-floxマウスおよびTlxノックアウトマウスとを交配して得られた二重遺伝子組換えマウスを解析することにより、VEGFR2とTlxとの遺伝的相関を明らかにすることを予定している。さらに、培養ミュラーグリア細胞を用いた分子生物学的解析を実施し、VEGFR2とTlxの分子間相互作用についても、さらに研究を展開することを予定している。今後は、本挑戦的萌芽研究により得られた成果をさらに発展させることにより、網膜芽細胞腫に限らず、網膜ミュラーグリア細胞の恒常性破綻に起因する種々の網膜疾患の病態解明および新規治療法開発につなげることをめざす。
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