研究概要 |
【目的】重症敗血症は,集中治療室(ICU)において最も問題となる,いまだ救命困難な病態であり,敗血症に罹患した患者の重要臓器ではあらゆる形態の細胞死が起こっているとされている.しかし,オートファジーと敗血症との関与を報告する研究は未だほとんど無い.今回,敗血症の病態で,オートファジーが如何に関与しているかを解明し,その正もしくは負の制御によって敗血症病態を改善させることを目的とする. 【平成23年度の成果】敗血症時にオートファジーが促進されているか抑制されているかを,マウス腹膜炎敗血症モデル(盲腸結紮穿孔;CLP,cecal ligation and puncture)にて検討した.C57BL/6雄マウスでCLPと単開腹(sham)を作成し,各臓器のオートファジー関連蛋白LC3の経時的発現をwestern blotting法にて解析した.その結果,CLPによりオートファジー誘導を示す膜結合型のLC3-II発現は,全臓器においてsham群に比しCLP群で増強していた.肝,心,脾においてLC3-II発現は顕著に増加し,CLP6時間にピークとなったが,その後減少しCLP24時間ではsham群と同程度となった.よって,CLPモデルの重要臓器において敗血症急性期にオートファジーが強く誘導され,次第に抑制されることが示唆された. また,GFP-LC3トランスジェニックマウスの繁殖に成功し,それらにCLP手術を施し,肝細胞のオートファジーの動態を免疫蛍光染色にて解析した.術後6時間の標本では,LC3の発現は増強しており,24時間で現弱傾向となった.一方で,オートファゴソームとリソソームの癒合時に増強するLAMP1は,6時間よりも24時間で増強しており,急性期にオートファゴソームの生成が促進していたが,亜急性期には相対的にオートファゴソーム分解のフェーズにシフトしていることが示唆された.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
GFP・LC3トランスジェニックマウスの作成に思いのほか難渋したため,オートファジーの抑制もしくは促進の介入実験に及んでいない.しかしながら現在は,同マウスは順調に繁殖し,注目している重要臓器の一つである肝について,すでに免疫蛍光染色による解析が前記のごとくすすんでいる.今後はこの若干の遅れを十分取り戻すことが可能と考えられる.
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今後の研究の推進方策 |
GFP・LC3トランスジェニックマウスに対する,免疫蛍光染色を用いた実験結果から,敗血症病態においてオートファジーが抑制されていると判断された場合は,autophagy hlducerであるrapamycinを,逆にオートファジーが亢進していると判断された場合は,autophagyinhibitorであるbafnomycinA1をCLP手術施行1時間後に腹腔内投与し,オートファジーの制御を試みる.そして,この24時間モデルにおいて,各主要臓器においてCLPによる侵襲が制御されているか否かにつき検討し,survival studyへと進展させる.その他のオートファジーの制御因子としては,インスリンや,侵襲早期の栄養投与なども検討し,オートファジー動態とサイトカイン発現やsurvivalとの関連につき検討を重ねる.
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