歯髄および骨における硬組織形成細胞は、それぞれ象牙芽細胞および骨芽細胞である。両細胞とも二次元の平面培養において、それぞれオステオカルシンおよびDSP(Dentin Sialo-phospho protein)といった分化マーカー発現を誘導することが可能である。しかし実際の組織においては、細胞は三次元で存在しており、二次元での培養において得られたデータは生体とは異なっている。このような点を鑑み、本研究においてはより生体に近い三次元培養を行い、その間におけるシグナル変動を解析し、それを臨床応用へ結びつけるのを目的とする。三次元培養は、コラーゲン、ゼラチンといったスキャフォールドを用いる培養が一般的であり、そのスキャフォールドが細胞外マトリックスとして細胞の足場として機能する。しかし、逆に臨床応用を考えた場合にはそのスキャフォールドが炎症を惹起してしまうリスクも指摘されている。そのため、今回ハンギングドロップ法に準じたスフェロイド培養を行うことにより分化誘導がどのように誘導されるのかを検討した。実験にはマウス間質細胞由来のKusaA1とマウス歯乳頭細胞由来のMDPを用いた。これらの細胞をスフェロイド培養し、その形態および特性の変化を観察した。スフェロイド培養に適した細胞数は、1ウェルあたり3x10^4であった。両細胞とも1日でスフェロイドを形成したが、透明の球形であった。その後、不透明の球状を呈し、時間経過とともに大きく成長した。BMP2といった硬組織形成誘導因子非存在下においても、スフェロイド培養によりオステオカルシン、デンティンフォスフォプロテインといったマーカー発現が亢進した。以上より、分化の方向性が決定づけられている細胞においては、スフェロイド培養を行うことでその分化傾向を増強する可能性が示唆された。
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