本研究は、齲蝕・咬耗・摩耗などによるエナメル質実質欠損に対して、歯胚中の未分化細胞を用いた再生療法を創造することを目的としている。マウスなどのげっ歯類は恒常的に切歯が伸びるので、その歯胚には高い分化能と再生能があり、歯髄組織から離れた咬合面であってもエナメルを再生することが可能と考えられる。本実験では、分子レベルでエナメル再生技術を創造することを目指し、採取された石灰化前のエナメル芽細胞を用いたエナメル質再生に挑戦している。過去3年間の研究の結果、有用な知見が得られるとともに臨床応用につながる細胞工学手技の向上が図られた。 前年度までの実験では、生後4週と生後2年のDNAマイクロアレイ解析を比較した結果、マウス歯胚には恒常的にSox2の発現が認められ、若年マウスにおいても老齢マウスにおいてもSox2は根尖部にて高いレベルで特異的に発現していることを確認した。すなわち老齢マウスにおいては、細胞ソースそのものの量は減少していると考えられるものの、メッセンジャーRNAにて確認できる細胞集団の活性は健在であることが認められた。 最終年度に得られた成果は、以下の4点である。①生後2日GFPマウスの切歯サービカルループから細胞塊を取り出し、ワイルドタイプのマウスの腎臓皮膜下に細胞を移植して4週後に屠殺した結果、歯の構造を伴った明瞭な石灰化物を得ることができた。②胎生、生後2日、生後2ヶ月の歯胚のRT-PCR検査と免疫染色の結果、Sox2の発現など幹細胞としての性質を維持していることが確認された。③胎生15日マウス、生後2日マウスのいずれから採取した切歯根尖細胞塊からも培養環境下でのin vitroでの石灰化物の形成を認めた。④歯胚細胞塊を顕微鏡下で取り出し、細胞シート工学技術を応用して効率よく未分化上皮系の細胞集団のみを取り出す方法を現在開発中である。
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