本研究はα型リン酸三カルシウム小球を調製し、当該小球を酸性リン酸カルシウム溶液で硬化させ、完全連通気孔構造を形成できるセメントを創製する研究である。 本年度は研究計画の最終年度に当たり、硬化性組成物の疑似体液中での反応および酸性溶液が組織に炎症性反応を惹起するか否かを検討した。 前年までの研究の結果、0.2モル濃度相当のリン酸第一カルシウムを0.1モル濃度リン酸に溶解させて調製した錬和液が硬化時間、硬化体の機械的強さの観点から好ましいと結論したため、当該硬化液を用い、α型リン酸三カルシウム小球を硬化させた。得られた硬化体を体液の無機組成を模倣した疑似体液に37℃で1,3,7日間浸漬して評価した。その結果、疑似体液浸漬前はリン酸水素カルシウムに特有の板状結晶に覆われていたが、経時的に結晶形態が変わり、アパタイト特有の結晶となることがわかった。また、X線回折分析およびフーリエ分光光度計による分析の結果、α型リン酸三カルシウム小球の表面に形成されていたリン酸水素カルシウムがB型炭酸アパタイトに組成変換されることがわかった。なお、B型炭酸アパタイトとはリン酸基の一部が炭酸基に置換されたアパタイトであり生体骨の炭酸アパタイトと同じである。 また、本多孔性リン酸カルシウムセメントは酸性水溶液を用いるため、炎症反応を惹起する可能性がある。そこでラットに骨欠損を形成し、α型リン酸三カルシウム小球で骨欠損を充填し硬化液で硬化させた。一週間まで経過観察を行ったが、著明な炎症反応は惹起されず条件を選択すれば本多孔性リン酸カルシウムセメントによる骨欠損部の再建が可能であることがわかった。
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