研究概要 |
放射線治療は重要な癌治療法であるが、放射線に耐性を示す腫瘍にしばしば遭遇する。一方、放射線感受性の腫瘍を治療する場合でも、人体は放射線に弱いため線量に制限があるとともに限局した狭い範囲にしか照射ができない上、再発時などに放射線治療を繰り返して行うことができない。本研究は、(1)放射線に対する耐性を克服するとともに、(2)低線量で十分な殺腫瘍効果が得られる強化療法を開発し、さらに、(3)広範囲照射や繰り返し照射治療が可能となる新しい放射線治療法に道を開くことを目的とした。 私たちの教室では、従来の研究においてICAM遺伝子は放射線耐性に強く関与していることをすでに報告した。本研究において、ICAMの発現を制御しているmicroRNA(miRNA)としてmiR-125bをmicroarray解析により同定した。そこで、real time PCRを用いて、口腔癌細胞株10種類と多数の臨床検体におけるmiR-125bの発現状態を確認した。その結果、正常口腔粘膜上皮と比較して口腔癌細胞株で有意にmiR-125bの発現が減弱しており、多数の臨床検体においても86%の症例でmiR-125bの発現抑制が認められた。また、口腔癌細胞株を用いて、miR-125bを遺伝子導入して強制的に強発現させることによるICAM遺伝子の発現状態を確認し、miR-125bとICAM遺伝子との関連性を検討したところ、miR-125bを強発現させた細胞株において、ICAMの発現抑制を確認するとともに、AKTのリン酸化が減少して、Tunel assay, Caspase3 activity assayを用いてX線照射によるアポトーシスの有意な増加を確認した。このことから、miR-125bはICAMの発現を制御し、癌細胞のX線感受性を増強させることが明らかになった。そこで、マウスに口腔癌由来細胞を移植して腫瘍を作成後、miR-125bを細胞株に遺伝子導入併用放射線照射実験を行ない、in vivoにおけるX線治療効果の増強を確認した。 以上の結果から、miR-125b投与による新規X線耐性克服治療法の基礎を確立することができた。
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