研究概要 |
【目的】現在、胚性幹(ES)細胞や人工多能性幹(iPS)細胞は、フィーダー細胞上で血清添加培地を用いて培養されているが、このような培養系では、細胞増殖・分化制御機構や制御因子を検討することは非常に困難である。今回我々は、フィーダー細胞を用いずに、マウスiPS細胞およびヒトiPS細胞の未分化性と多分化能を維持可能な無血清単層培養系の確立を目指した。【方法と結果】マウス胎仔線維芽細胞由来iPS細胞(miPS:理化学研究所cell bank)を用いて、マウスES細胞用に我々が開発した無血清培地ESF7を基に、同細胞の未分化性・多分化能を継代・維持可能な無血清単層培養系を確立した。同培養系では、Oct3/4,Nanog,Sox-2,Esg1などの未分化マーカーの発現を認め、アルカリフォスファターゼ活性陽性を示した。さらに、長期継代培養(168代)後もこれらマーカーの発現を認めた。また、ラミニン処理プレートにて、ESF5培地(LIF、BSA不含)にFGF-2を添加すると、神経系マーカー(Nestin,β-IIItubulin)陽性の神経細胞特有の突起を形成した。さらに頭部で発現するOTX-2、neural crest形成に関与するAP2の発現を認め、これら細胞は頭部の位置情報を持つ可能性が示唆された。さらに、胚様体内においても神経系マーカー陽性反応を認めた。また、免疫不全マウス移植細胞は三胚葉へ分化したテラトーマ(奇形腫)を形成した。さらに、ヒト(日本人女性)胎児肺線維芽細胞TIG-3細胞に、レトロウイルスを用いて4遺伝子(Oct3/4,Sox2,KLF-4,c-MYC)を導入し、我々がヒトES細胞用に開発・報告した、動物由来成分や代替血清などを含まず全組成が明らかな無血清培地hESF9を基に、各種細胞外マトリックス(type1collagen,gelatin,fibronectin,Laminin)上に播種した。その結果、ヒト線維芽細胞から安定してヒトiPS細胞を作製することに成功した。またコロニーは感染後約2週間で出現し、未分化の指標の1つであるアルカリフォスファターゼ活性陽性を示した。【結論】本無血清培地を用いる事で、miPS細胞の増殖・分化を制御する各種因子の検討が標準化できるとともに、より安全で確実な再生医療の実現につながると考えられた。さらに、従来のヒトiPS細胞培養系では、フィーダー細胞や動物由来成分の使用により各種異種抗原の混入の恐れがあるが、本培養法を用いることで、ヒトiPS細胞の増殖・分化を制御する各種因子の検討が標準化できるとともに、移植医療のソースとしての安全性の向上や創薬スクリーニングへの応用といった、安全で確実な再生医療の実現が可能となると考えられた。
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