研究概要 |
【目的】本年度の研究では、一昨年の本研究において開発したマウスiPS細胞の未分化性と多分化能を、フィーダー細胞を用いずに維持可能な無血清培地を基礎にして、動物由来成分を含まず、さらにフィーダー細胞を用いずにヒトips細胞の未分化性と多分化能を維持可能な無血清培地の開発を目指した。さらに同培地を用いてips細胞の樹立についても検討した。 ヒト胎児肺線維芽細胞(TIG-3細胞)および鎖骨頭蓋異栄養症由来歯髄細胞に、レトロウイルスを用いて4遺伝子を導入し無血清培地hESF9を基に、各種細胞外マトリックス上に播種し、hiPSの樹立を試みた。また、iPS細胞誘導効率に及ぼすウイルス濃縮の効果によるについて検討し、ウイルス感染から樹立までの全過程において完全無血清培養系でのhips樹立の検討を行った。 【結果】hESF9無血清培地を用いて、フィーダー細胞を用いずヒト線維芽細胞および鎖骨頭蓋異栄養症由来歯髄細胞に、レトロウイルスを用いて4遺伝子(Oct3/4,Sox2,KLF-4,c-MYC)を導入し、ヒトiPs細胞を誘導することに成功した。またiPSコロニーは感染後約2週間で出現し、未分化の指標の1つであるアルカリフォスファターゼ活性陽性を示した。また、ウイルス感染から樹立までの全過程を完全無血清培養系にて行いhiPSを誘導できることができた。また、これら細胞は、ヌードマウスにおいてテラトーマ形成をした。また、embryo body培養法にて3胚葉への分化能を有していることが明らかとなった。 【考察】従来、ES細胞やiPS細胞などの幹細胞は、不活性化したフィーダー細胞や血清などの動物由来成分を含む条件で培養されておち、各種異種抗原の混入の恐れがあり、再生医療への応用は困難である。本研究の結果、マウスESやヒトES用に開発したESF7およびhESF9培地を用いることで、フィーダー細胞や血清を用いずに、ヒトiPS細胞を誘導する事に成功した。本培養系を用いることで、iPS細胞の培養・維持が標準化できるとともに、増殖・分化を制御する各種因子の正確な検討が可能となる。さらに、再生・細胞治療のソースとしての安全性の向上や創薬スクリーニングへの応用が進み、安全で確実な再生医療の実現が可能となると考えられた。
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