胎生期の組織を用いた研究は、組織再生のメカニズムを知る手がかりとなる。我々は、胎生期組織から細胞を分離し、in vitroで再構成させるモデルを開発し、組織学的に観察した。 胎齢13. 5日の胎仔マウスより顎下腺を摘出し、単一に分離した細胞を高濃度でI型コラーゲンゲルやマトリゲル中に滴下しフィルター上で培養したところ、細胞塊より分枝形成、続いて管腔形成が観察できた。組織中の小葉ではPAS染色にて粘液の産生が確認され、免疫組織化学ではアクアポリン5の局在を認めたことにより、構造物は正常組織のTerminal Bud Stage相当まで分化可能であることが示された。また、コラーゲンゲル中にフィブロネクチンを滴下することで、管腔形成は抑制され、分枝形成が促進された。抗インテグリン. 2中和抗体を添加すると、管腔の空洞化、肥大化が抑制された。一方、抗インテグリン. 5中和抗体を添加すると、管腔の空洞化、肥大化が抑制された。単一化細胞を腎被膜下に移植しても細胞塊は組織構築を示した。 この培養系では、胎生期の顎下腺細胞はその構造を再構築する機能を持ち、胎生期の唾液腺分化過程をある程度再現できることが示され、この方法は組織再生の過程を考察するのに有効な手段の一つであると考えられた。さらに、細胞外基質蛋白およびその受容体蛋白の調節が再構築に重要であることから唾液腺幹細胞と間葉系細胞の相互作用の重要性が示唆される。近年、組織構築における上皮間葉移行の重要性が明らかにされ、その制御遺伝子・蛋白であるBrachyuryの関与が報告されている。そこで胎生期唾液腺の正常分化におけるその発現を検討した。胎齢13. 5日の唾液腺原器ではBrachyuryの高発現が認められたが次第に発現が減弱した。このことから唾液腺組織構築における上皮間葉移行の関与とBrachyuryによる制御の可能性が示唆された。
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