近年、人工多能性肝細胞(iPS細胞)が発明され、細胞ベースの再生医療法の開発が注目を集め、脊髄損傷後の神経再生や糖尿病、肝硬変、アルツハイマー病などの疾患治療のみならず、毛根や網膜、歯の再生などの応用が期待されている。しかしながら、iPS細胞には癌遺伝子が導入されている点でその安全性に疑問があり、骨髄や臍帯血を用いた方法でも、幹細胞の獲得効率や簡便性という観点からも問題は多い。我々は、すでに薬剤としての安全性が認可されているGSK3β阻害剤あるいはその他の種々の人工低分子化合物用いて、比較的侵襲の少ない抜歯後の乳歯歯髄細胞に添加することにより、幹細胞を効率的に回収、増殖させる調整法の開発を目的として研究を進めている。 我々はマウス歯乳頭細胞から樹立した細胞株mDP6細胞に、GSK3β特異的阻害剤を処理することによって、細胞の形態が著しく変化することを突き止めた。この形態変化は、歯髄細胞に存在する未分化幹細胞の集団と類似していた。また、胚性幹細胞に多様性といった独特な性質を与える重要な転写因子のひとつであるNanog遺伝子の発現誘導を引き起こすことを明らかとした。 さらに、GSK3β特異的阻害剤を処理された細胞における細胞増殖能について、検討したところ、その増殖活性が著しく低下することが明らかとなった。現在、GSK3β特異的阻害剤を処理された細胞が、多分化能を有しているのかどうかを各種(骨、神経、脂肪)誘導培地にて、培養することによって、その分化能の検討を引き続き行っている。
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