研究概要 |
近年、睡眠時ブラキシズムと胃食道逆流症等との関連が注目されている。しかしこれまで、胃の蠕動機能と顎口腔機能との関連性を詳細に検討した報告はない。そこで、本研究は歯科分野の研究に内科学的検査(胃排出能、胃電図)を適用して、胃の蠕動機能と顎口腔機能との関連性を検討した。 対象は第三大臼歯以外に喪失歯がない個性正常咬合を呈する健康な成人男性14名で、顎口腔機能異常や上部消化器疾患の既往のあるものは対象から除外した。測定項目は13C呼気試験法(胃排出能)、胃電図(胃の運動機能)、心拍変動解析(自律神経機能)、喉頭部の運動(嚥下回数)、咬筋筋電図(咀嚼筋活動)で、これらの測定を「咀嚼あり」と「咀嚼なし」の2条件下で行った。試験食は液状食を用い、1分間隔で4回に分けて摂取させ、「咀嚼あり」では摂取中に無味無臭のガムベースを計5分間咀嚼させた。 その結果、「咀嚼あり」では1)Tmax,TmaxA,T1/2,T1/2WN,Tlagが有意に大きく、胃排出能は遅延し、2)胃電図のドミナントパワーは試験食摂取後に一過性の抑制が認められ、3)自律神経活動は、試験食摂取後、HFP(副交感神経活動)が一過性に低下していた。以上から、咀嚼を行うと自律神経機能を介して、初期の胃排出が抑制されることが初めてわかった。これまでは、消化管機能へ果たす咀嚼の役割は、食物の粉砕が中心に考えられてきたが、本研究で様々な項目の測定を同時に行うことにより、咀嚼は食物を粉砕するだけではなく、食物の一定の貯留や一定速度での排出などの胃の生理的機能に関与している可能性があることが示唆された。
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