生物の健康が環境に左右されることは、良く知られている。代表的な例としては、温熱環境による熱中症や季節性の感染症である。しかし、口腔領域の疾病と気象との関係については、ほとんど知られていない。そこで本研究では、口腔関連の疾患と気象条件との関係を明らかにすることを目的とした。 調査期間は平成22年6月から平成23年9月の間とした。岡山大学病院の予防歯科診療室を5年間以上受診している外来患者で症状が安定していたにもかかわらず、口腔の異常(歯の痛み、歯肉の腫れ等)を急遽訴え、予約時間外で来院した患者(急患)を対象とした。患者情報として、年齢、性、口腔の異常の種類を記録した。また、来院日の気象データ(岡山市の気圧、降水量、気温、湿度、風速、日照時間など)を気象庁から入手した。 調査期間中、506名(男性158名、女性348名、平均年齢67.3±11.8歳)が異常を訴えて来院した。そのうち、歯周病に起因する症状(歯周膿瘍等)が最も多かったので(217名)、本症状に注目し気象との関連を分析した。各月を3等分(上旬、中旬、及び下旬)し、その間に来院した患者数を算出し、その間の気象条件との相関を検討した。その結果、平均気圧(r=0.310、p<0.05)、平均日照時間(r=0.369、p<0.05)が、来院患者数を有意な相関を示した。その他の指標について有意な関連は認められなかった。 以上のことから、気象条件と口腔の炎症性疾患との間には何らかの関係がある可能性が示唆された。ただし、来院時の気象条件は、症状の発生した時刻とは時間的なズレがあり、また症状の起こった場所と岡山市とでは気象条件が全く同じであるとは限らない。したがって、今後はより詳細な分析が必要である。
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