本研究の目的は、国内における災害現場でのトリアージによって、黒のトリアージタグ(黒タグ)を付された遺体に対する身体診察(死亡の再確認)およびタグへの所見などの記入を看護師が行うために必要な能力の開発について検討することである。 本年度は、災害医療活動の経験を有する看護師4名・医師3名を対象に半構成的面接調査を行った。インタビューガイドに基づいて、災害医療活動の経験、災害時の遺体対応を生存者の救出と区別して行うことに対する意見、看護師が遺体対応を行うために必要な知識・技術、能力の向上・開発のために必要とされる研修・訓練に関する考えを聴取した。当該インタビューの結果を基にして検討したところ、看護師による遺体対応に関わる課題は以下のように集約された。第1に災害現場における遺体対応に伴う課題として、遺体対応における活動体制、死亡の再確認方法、黒タグへの記録内容、黒エリアのマネジメントに関する課題が抽出された。第2に遺体対応に必要な知識・技術として、生命徴候を判断するための確実な技術、トリアージの知識・技術、現場における看取りのケア技術、検死に近い技術などが抽出された。第3に知識・技術の向上・開発のための研修・訓練として、身体診察技術、トリアージ、DMAT研修、プレホスピタルケア、救援者のメンタルヘルスなどが抽出された。第4に遺体対応に伴うストレス対処に関する課題が抽出された。第5に災害医療活動に参加するための環境づくりに関する課題が抽出された。看護師がその身体診察技術を駆使して、検死や遺族への情報提供に資する現場情報を的確に記録するためには、死亡の再確認方法および黒タグへの記録内容を明確化する必要性や、身体診察技術の向上・開発につながる様々な研修・訓練の必要性などが示唆された。次年度は、看護師を対象に具体的な能力の向上・開発に関する全国的な意識調査を行う予定である。
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