本研究の目的は、認知症高齢者のワンダリング関連行動が気象による影響を明らかにすることである。方法は4地域のグループホーム9施設入居の認知症高齢者16名のワンダリングに関連する行動観察をAlgase Wandering Scale等で観察し、気象データは居住地最寄りの観測所データを用いた。高齢者家族の同意を得た後に実施した。観察期間は22年秋季から25年春季まで1季節2週間、9季節を観察した。対象16名の平均年齢84.3歳±6.3、女性は14名、診断名はアルツハイマー型認知症(AD )9名、脳血管性認知症(VaD )2名、その他であった。ワンダリング影響要因の便秘傾向は8名で適宜下剤が処方されていた。途中離脱は歩行困難2名、死亡2名であった。検定はspearmanの順位相関係数を、有意差のあった行動を判別分析で影響気象要因を検討した。全データ(n=1340)では特徴がつかめなかったため、AD(n=686)とVaD(n=126)に分け分析した。ADでは「持続固執歩き」と平均気温が弱い相関(r=0.266)、「目印をおく」と平均風速が弱い負の相関を示した(r=-0.257)。一方、VaDでは、「家で迷子」「妄想」「暴言」が降雪量、最深積雪量と正の弱い相関を(r=0.252~0.33)、平均気温とは負の弱い相関(r=-0.226~-0.241)を示した。判別分析の結果、いずれも判別力が弱いもののADでは「持続的固執歩き」は平均気温(標準化正準判別関数係数0.816)の上昇と、平均風速の減弱(-0.59)ほど行動が発現する傾向にあると考察された(判別的中率73.6%)。VaDでは「妄想」と「暴言」は最深積雪量(係数1.092、0.997)が多いと増加傾向を示す(89.7%)結果が得られた。認知症高齢者のワンダリング関連行動は、疾患に因るが平均気温、積雪量の影響を受けることが判明した。
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