本研究の目的は、保健師の日常の倫理的ジレンマを生じさせ、倫理的実践を困難にする自治体行政組織の文化を明らかにすることであった。平成23年度に、2つの行政組織(自治体)にフィールド調査を施行した。平成24年度については、そのデータ分析を進め、結果をまとめ、日本公衆衛生看護学会で発表した。 1.インタビューの分析 研究者間でインタビューの内容分析を行い、2012年10月には、その分析結果を行政組織(自治体)の研究協力者に伝え、意見交換をして結果を洗練させた。 2.日本公衆衛生看護学会における成果発表 2013年1月に開催された第1回日本公衆衛生看護学会において、「自治体行政組織のエスノグラフィー―保健師が行政組織で働くということ―」というタイトルで示説発表を行った。本研究結果において、行政組織文化とは、「行政組織人として、組織の目的に基づく業務を行政組織上の手続きに基づいて忠実に遂行する」ことであった。また、行政組織における保健師集団は「住民の健康・安寧を目的とし、専門知識・技術を用いて活動する」という独自の文化を持っていた。行政組織の中で、保健師は行政組織文化と保健師集団文化という異なる2つの文化の二重拘束(ダブルバインド)の状態にあった。保健師は行政組織において異なる2つの文化の中にあり、行政職と保健師の間には現実認識にずれがあり、保健師実践や育成に関連していた。保健師は、行政職とは異なる文化にある現実を認識した上で、互いに理解できる形で事業や現任教育を進めたり、住民のためにという共通の目的のもとに協働する組織文化を創るなど、二つの文化を融合する形で保健師実践、並びに人材育成を計画・実施していく必要があるだろう。
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